最終話:「この日々を、君とともに」
奏は、いま作家として執筆の毎日を送っている。
最初は、小さなエッセイ投稿サイトだった。
「書いてみれば?」――そのたった一言をくれたのは、ほかでもない悠真だった。
あの言葉から少しずつ、物語が広がり、いまではいくつかの連載を抱えるまでになった。
〆切に追われる日々は大変だけど、それでもこの日常が愛おしくてたまらない。
一方の悠真は、相変わらず仕事はできるし人望も厚い。
でも、誰よりも早く退社するのが日課になった。
「今日は取材? じゃあ、夕飯は俺が作るよ」
「新しい原稿読んでほしい? いいよ、布団の中で読ませて」
――玄関を開ければ、そこにはいつも、奏の笑顔がある。
「おかえり、悠真」
そのたった一言が、疲れた心をほぐしてくれる。
来週、悠真は久しぶりの海外出張。
奏はパスポートを手にそわそわしていたけれど、今回は原稿の締切の関係でお留守番になった。
「……一緒に行きたかったのにな」
リビングのソファに丸くなって、頬を膨らませる奏。
悠真はそんな姿に思わず笑って、後ろからふわりと抱きついた。
「……可愛すぎて、仕事行けないんだけど?」
「ずるいなあ、それ。原稿も書けないよ……」
「じゃあもう、俺がスーツケースに入れて持ってく?」
「やめて、それ普通に通報されるやつ」
ふたりで笑い合いながら、ぎゅっとその距離を縮める。
変わったこともたくさんあったけれど、ふたりの“好き”だけは、なにも変わらない。
今日も、そして明日も、きっとこの先も。
この日々を、君とともに。
――「じゃ、帰国したら“ごほうび”よろしくね?……逃げないでよ?」
そしてまた、ひとつ甘いキスが交わされる。
(Fin.)
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