第5話:「本当の“YUMA”」
その後も奏は何度か”偽の悠真”に会った。
違和感を追求することもできず、ただ時間だけを共有している感覚は拭えなかった。
コンビニの帰り、街灯に照らされた道。健吾の手がそっと奏の手元に伸びた、その瞬間だった。
『えっ⁈』
奏は驚きと戸惑いを隠せないまま、偽の悠真の顔に目をとめた。
「やめろ」
鋭く切り込む声….本当の悠真だった。
「……悠真……?」
奏の目が見開かれる。健吾が驚いて手を引っ込めたその隙に、悠真は一歩前に出て、奏の腕をそっと掴んだ。
「……奏、行こう。話がある」
抵抗する間もなく、そのまま連れ出される。後ろで健吾が名前を呼んだが、奏は振り返らなかった。
ふたりきりになった人気のない道端で、悠真はようやく足を止める。
息を整えることなく、そのまま――言葉があふれ出した。
「……ごめん、奏。ずっと嘘をついてた。本当の“YUMA”は、俺だ」
奏の瞳が揺れる。
「……なんで……?」
「お前に会いたかった。でも、現実の俺じゃ……お前のそばにいられないって、怖かった。だから、偽って――ゲームの中で君の隣にいたんだ」
声が震えていた。悠真の目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「ずっと後悔してた。会社でも、辞めた後も、お前に何もしてやれなかったこと……。あのとき、お前が苦しんでることに気づいてたのに、何もできなかった……!」
その手が、奏の袖を掴む。
「でも……俺は、奏のことが、好きなんだ。ずっと……ずっと、探してた」
奏は、何も言えなかった。ただ心が追いつかず、戸惑いのまま、その場から逃げるように家へと帰った。
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